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奥村大介「ささめく物質――物活論について」を読んで

奥村大介(2013)「ささめく物質――物活論について」『現代思想』Vol.42(1), 116-129.

現代思想 2014年1月号 特集=現代思想の転回2014 ポスト・ポスト構造主義へ

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奥村氏の「ささめく物質――物活論について」(以下、物活論)は、著者自身が最後の章「物たちのささめき」で論攷の要所をまとめています。また、ツイッターでのユーザー名、あさみれい氏が「物活論」について既に評しています(以下、リンクから読むことが出来る)。
http://www.twitlonger.com/show/n_1rvaseg

そこでここでは「物活論」についての内容紹介はほどほどにして、奥村氏の他の作品と「物活論」の関係を書きたいと思います。そのため、この記事は「物活論」がどのような論文かを知るためというよりも、その論文を読んで氏の研究に興味を持った人のための「奥村氏の研究ガイド」というような趣向が強いものになると思われます。

「物活論」は3・11における物質と人の関わり方への疑問から始まります。その後、唯物論からヘッケルの物活論まで、物質の生命性についてのこれまでの思想を概観し、無生物と言えるものの生物性や生物と無生物の境界を考察しています。その上で、現代においても物活論的態度が有意義であること、物質と人の良い関係のための3・11以降の現代の詩学の重要性を述べます。

「物活論」も奥村氏の科学文化論的作品の一つと言えましょう。そもそも氏は「日本におけるフランス科学認識論――脱領域の知性のために」という論攷の中で、日本における科学認識論について言及した上で、これからの科学に関する人文学研究の一つの態度として科学文化論を推奨しました。ここから、これまでの科学に対する態度についての思想などから現代の詩学を考えた「物活論」にも、科学史の学際的な発展を望む氏の態度が見られます。

また、「石の詩学・序説――鉱物文化論のために」では、「物活論」同様にヘッケルなどにも触れているばかりか、ミシュレの言から「精神と物質の幸福な関わり」の重要性が述べられています。「物活論」での主題とも言える「物質と人の幸福な関係」は、この論攷からきていると考えられましょう。

「重力の観念史」では様々な重力観を概観した上で、重力を克服しようとする現代科学の態度について批判的考察の必要性を述べています。「日本におけるフランス科学認識論――脱領域の知性のために」以降、奥村氏はこの「重力の観念史」や「物活論」にも見られるように、科学思想史から(あるいはそこから発展させて)現代を問うという態度をとっています。その中でも特に氏は、これまで挙げてきた論攷や「科学が詩になるとき――石原あえか『科学する詩人 ゲーテ』[慶應義塾大学出版会、2010年]書評」などを見る限り、「詩と科学」の関係を重視しているように思われます。

以上から「物活論」は、まさにこれまでの奥村氏の論攷のエッセンスが詰まったものになっていると言えます。

最後に、奥村氏のこれまでの作品情報が公開されており、いくつかの論攷はDLが可能な氏のリサーチマップへのリンクを以下に貼っておきます。

奥村大介 - 研究者 - ReaD & Researchmap